オランダからサドルフィッターが来ていました。
今まで、メーカーのサドルフィッティングには立ち会ってきましたが
ヨーロッパ全土、北米にまで世界を股にかけて活躍するフィッターさんには
出会ったことがありませんでした。
そして、サドルメーカーが、わざわざ彼女を選んで
世界中の顧客のフィッティングを依頼する理由が分かりました。
馬とライダーの情報を基に、作製された鞍を、
馬の問題点を見抜いて、微調整する技術。
これが半端なく素晴らしかったんです。
出来上がった鞍は、もうライダーと馬の元に届いているので
既にクラブで使われていました。
フィッター「何か、この鞍で、違和感や問題を感じていることはある?」
ライダー「特には、ないです」
鞍は、その馬専用に出来て届いていますので、
ライダー達は殆ど違和感を感じていませんでした。
ライダーが乗って、軽く
常歩、速歩、軽速歩、駈歩をしてもらいます。
そして、
「この馬は、前に滑りやすいから、もう少しだけ調整します」
「この馬は、左右の筋肉量が違うから、調整します」と言うと、
鞍を下ろし、ナイフで鞍を少し切り開いて
ふわふわのウール(羊毛)を専用の道具で入れていきます。
多分、グラムにして10gあるかないか。
大きさ的には、毛糸玉1個分。
羊毛を入れて、再度、運動してもらうと
下から見ていた私でも
「えー!??これ、同じ馬ですか???????」
と声を上げてしまう程、段違いに良くなっているのです。
決して、運動を強めたわけでもないし、
乗り手が変わったわけでも、鞭を持ったわけでもないんです。
でも、明らかに、肩の可動域が広がっているんです。
前が軽くなって、さっきに比べて、アップヒル!
速歩が一番顕著に出ていましたが、
まるで伸長速歩に変わったかの様でした。
(諄いようですが、運動課目は変えていません)
ライダー達も、「わー!全然違う!!!乗りやすい!」と
びっくりする程の違いを感じていました。
そして
「確かに、左の頼りなさが消えて、左右のバランスが取れている!」とも。
ライダー達が殆ど違和感なく乗れていた完成度の高い鞍でしたが
このフィッターは、目に見えない馬の筋量や、
ライダーが、無意識下に感じているであろう問題点を
瞬時に見抜いて、調整したのです。
私は、
鞍というのは、馬の邪魔を出来る限りしない様にすることが
大事だと思ってました。馬の背を痛めないために。
腰が弱い馬、背の反った馬、そういう子たちが
如何に楽に運動出来るようにするか、
つまりペインキラーの考えでした。
それから、ライダーの乗り心地、姿勢の取りやすさ。
良い鞍とは、そういうものだと思っていましたし、
鞍の採寸も、そういう頭でやっておりました。
でも、今回の事件で(私にとっては、大事件でした)
鞍というのは、馬の能力を、引き出すものなんだと学びました。
左右がアンバランスであれば、鞍は足りないものを補い
背中の筋肉が落ちているならば、筋肉が付きやすい形の鞍を作り
腰高タイプの(鞍が前に滑る)馬には
前が軽くなるように重心を調整し…
そうして、馬に合わせて出来上がったオンリーワンの鞍は
結果的に、馬の、本来持っているものを
最大限に出すサポートをすることが出来るんだなぁと。
片手程の羊毛で、あんなに効果をだせるなんて。
まさに、魔法の様でした。
自馬を持たれている方は、絶対に、
オーダーメイドの鞍をお薦めします。
そして、年1回のフィッティングを受けて頂きたいです。
毎月、何十万と預託料と調教料を払っている愛馬
もしかしたら、何百~何千万と払って海外から輸入した子も、
10gの羊毛が、大きな違いを産むかもしれません。
あの変わり様をみたら、鞍代で済むなら安いと思えました。
元来、サドルフィッターの資格に興味のあった店主ですが
益々その思いは強くなり、彼女に師事して
色んなことを学ばせてもらうことにしました!
馬の世界って、どうしてこんなにも奥が深いのでしょう?
学びたいことがたくさんありすぎて、時間が足りないです。